沢筋に名残の雪を見つける頃、様々な色彩の新芽はそろそろと開きながら次第に緑色に並んで行く。様々な色で錦繍の織物を編んで行く秋とは違って、緑一色に山肌を染める。

仰ぎ見る谷間を埋め尽くした新緑のむせるような匂いは、確かに車で山に分け入ってドアを開けた瞬間に感じる自然の匂いだ。匂いのない紅葉の山の、音と視覚の風景にはない息吹を感じる。今年はどんな紅葉を、そんな思いは新緑の山にはない。それはその季節に山に入れば、どこにでも草は有り、木々は有り、新緑なのである。杉に被われた山の中、空は塞ぎ陽はかすかに影を落とす、そんな足下に羊歯や地を這う草たちが鮮やかな透明感で緑を装う。暗い林の地べたを、草の内から萌えて輝く青葉。何度も見ていて何の思いも巡らせなかった変哲もない佇まい。歳を取らなければ分からなかった羊歯や下草の新緑に心打たれる。歳を取ることで、ありふれた風景に新しい価値観を生み感動できるなら、もう少し生きてみようかな。