残雪の山を見上げて、この日辿れる道に思いを馳せる。今日も笑顔がありますように。自然が相手の山登りは思い通りに行かない事が多い。そんな時こそ頑張ろう、見続けてきた憧れはいつも目の前にあるのに、なかなか届かない。残された時間を思うと涙が溢れるけど、掴めない憧れを嘆くより、どう歩いて、どこへ歩いて行ったのかが大切。山登りは人生、だから途中でリタイアが出来ないんだ。どこに登ったではなく、どう歩いて、どこへ向かっていったかが大切。豊富な残雪の山も、麓で雪が溶ければ薮の道、雪に埋もれた緩やかな沢は天上への参道、穏やかな扇状の源頭風景が、大展望の雪稜に消えて行くと、眼下の里の緑がまばゆい。凍てつく風が和らぎ、いつの間にか土の匂いを運んでくる。雪の白さが緑を際立たせる時こそ、新緑。
測量をしながら日本中を自分の足で歩きまわり日本地図を作った伊能忠敬が費やした年月は17年、とてつもない月日と偉業であるが、17年を4回も過ごしてきた私の月日は何をしていたのだろうかと思う。冬から春へ、当たり前に過ぎていた季節なのに、 今年は何故か残雪の守門岳で春を迎えられた喜びを噛みしめる。