尾根の一番高いところから緑が始まる山の春。そして一番長く陽の当たる斜面から次第に緑色が谷へ降りて行く、里は既に田植えも終わり、水の張られた田ではカエルが恋の季節。残雪を見れば陽の当たる様がよく分かる。地図を見て山を知れば向かうルートの雪の様が分かる。地図は地形を明らかにしてくれるが、雪の有様を示してはくれない。それを明らかにするのは人の知識と経験、それには日々天候を心にとめて、常に山に思いを馳せ、見続けることだ。日々の積み重ねは山登りが好きでなかったら出来ないことだ。人それぞれ夢中にさせる趣味を持っているが、こうして不確かな自然や気象、移りゆく季節を敏感に感じ取り、現場で命のやりとりをす遊びはそう多くはない。水清らかな渓谷とそれを育む豊かな連峰、初夏の山の恵みに憩う豪雪地帯の一角で味わう珈琲の一杯。思い出を語り、明日を思っても、深い話はしまい。五感で感じる風景の中で至福の時を過ごせば、迷いや悩みを笑い飛ばしてくれる。