雪の眩しさに目を細めると、山の白さに映えて空は一層蒼く濃く、だが透明だ。
梢の先までくっきりと雪面に刻まれた影は、焼き物の絵付けのように艶やかで動かない。
そんな雪面を撫でるように吹き渡る風はまるで生き物のように自在に動き回り、尾根を駆け抜けて左右の谷に落ちてゆく。私はその中心に立って全てを見届ける。特別な景色ではない、好天に恵まれた厳冬のひととき、ただ真っ白な尾根を風が吹き抜けただけ。
雪のない里では狭霧が凍って、草木や岩に霜が降りる。凍てつく寒さの中でも鳥は歌い、人は畑に出る。梢の上で、しきりに、だみ声を響かせるオナガドリは恋の季節でもないのに、何を叫んでいるのだろう。雲は低く垂れ込めて、時雨がやがて雪になる。時折見せる小春日和は北風に吹かれて弱々しい。冬の何気ない風景である。たとえば冬の歌は沢山あるけれど、ただ情景を描いただけの歌はない。必ず、愛や別れやさみしさや・・・冬ならではの人の情念が綴られている。だからこそ、心にわだかまりがなければ、そんなありふれた風景の中でも幸せに過ごせる。