「あ、危ない!!」大声に目が覚めた。稜線に天幕を張った冬合宿での夜のこと。きっと彼は不安をいっぱい抱えて冬合宿に臨んだに違いない。ただ人任せではない準備と、人に頼るだけでない現地での行動を思い、入山までにどれだけ不安な日々を過ごしたのだろう。明日は山頂アタックという夜に彼はどんな夢を見たのだろうか。思えば私もよく夢を見た、滑落したり、どうしても手が動かないもどかしさでふと目が覚めたりした。翌日、彼は危なげなく山頂に立ち、しかりした足取りで難所を通過した。下山の日、まだ明るさのない天幕の外に出ると、しんしんと雪が降っていた。稜線も空もなく、ただヘッドランプに照らされて目の前の雪だけがあった。失われて行く感覚に、手を叩きながら黙々と撤収をする。正月の盛りを終えた天幕地に人々のざわめきを知らない雪が大勢の痕跡を埋め尽くしていた。彼も私もいっぱいの不安を抱えながら日々山と対峙し、だが晴れ晴れとした日々、悔いのない日々を送っていたに違いない。山の魅力は外にあるのではない、自分の内で育つものだろう。